医療法人を設立するにあたっては、理事や監事の報酬(役員報酬)を決めなければなりません。
今回は、医療法人の役員報酬について説明していきます。
役員報酬とは
医療法人を設立する際には、医療法人の役員に就任する理事・監事の報酬=役員報酬を決定する必要があります。
(以下、理事及び監事の報酬を総じて「役員報酬」と称します。
役員報酬とは、役員へ支払う報酬のことをいい、およそ給与のようなイメージです。
※役員報酬には、「定期同額給与の原則」があるため、厳密には給与とは異なるものですが、
ここではイメージしやすいように「役員報酬≒給与」としております)
医療法人の場合、役員報酬は経費に計上することができ、また、役員報酬の支払いを受ける役員は、年末調整などの際に「給与所得控除」を受けることができます。
個人診療所の場合は、「役員報酬」という概念がありませんので、例えば非常勤で経営に参画している方(ご親族等)がいらっしゃる場合は、勤務日数等により厳密に給与計算を行う必要がありますが、医療法人の役員報酬として支払う場合は、そこまで厳しく出勤日数等の管理をしなくても良い場合があります。
所得税は、給与から給与所得控除等を差し引いた金額(給与所得)を基に算出されるので、給与所得控除を利用できない個人診療所と比べると、医療法人化した方が税務上のメリットを受けることができます。
(医療法人化していない個人診療所の場合、給与所得控除がありませので、所得は全て院長個人の所得となります。)
医療法人にするとどれくらい節税対策できる?
個人でクリニックを経営している場合、所得税は累進課税なので個人の所得が増えるほど負担額が増えます。
(個人の所得税率は、課税所得が1,800万円を超えると約40%となります)
このため、利益が出ても多額の税金を支払わなければならず、なかなかお金が手元に残らないという事態になってしまいます。
医療法人化すると、医療法人の税率は課税所得は800万円までは約15%、それ以上は約23%と個人の税率より低く制定されています。
医療法人から理事および監事に支払われた役員報酬には、これまでと同様に個人の税率で所得税が課税されます。
そうなると、役員報酬を個人で受け取るより、医療法人に多くの利益を残したほうがいいのでは?と思われますが、そうとは限りません。
医療法人に残ったお金は医療法人の業務にしか使えないので、役員個人の生活や好きなことに使えません。
理事長やその他の役員がこれまで通り生活をしていくためには、医療法人から役員報酬を受け取る必要があります。
役員報酬の規制
かといって、役員報酬を多くし過ぎれば、医療法人の経営の安定性を損なうこともにも繋がりかねず、また、不相当に多額な役員報酬を設定してしまうと、医療法人のお金を使い込んでいる=「剰余金配当の禁止」に抵触してしまう可能性があるため、医療法人の財務状況をしっかり把握したうえで検討することが必要です。
役員報酬はなぜ規制されている?
役員報酬は、法人等の役員に対して支払われる報酬のことで、会社の従業員に支払われる給与とは税法上異なるものです。
社員への給与は、税法上“損金(≒経費)“として扱います。
法人から支払った給与は、経費として法人の利益から差し引くことができ、法人税を減らすことができます。
一方で、役員報酬は会計上は経費として計上できても、税務上、必ず“損金“として計上できる訳ではありません。
なぜというと、役員報酬には定期同額給与の原則があり、年間を通じて毎月同額の給与を、1カ月以下の一定期間毎に支払わなければならないというルールがあるからです。
なぜこのような制約が設けられているかというと、決算期の直前に役員報酬を増やすことで法人税の支払いを減らす、といった操作ができないようにするためです。
役員報酬はその金額が大きいことが多いので、取り扱いを誤って損金算入(税務上、経費として計上すること)ができないと、想定外に多額の税金を支払うことになってしまいます。
それではどのような役員報酬なら損金算入できるのか、ルールを説明していきます。
税務上、換算入できる役員報酬は、
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
上記のいずれにも該当しない場合は損金に計上できません。
また、いずれかに該当していても、不相当に高額な金額は損金として認められません。
事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、事前にボーナスの金額を決めて届け出ておく方法です。
これには3つの条件があります。
- 賞与(ボーナス)の金額を決めておくこと
- 賞与(ボーナス)を支給する日を決めておくこと
- この2つを決めた日の1カ月後までに税務署に届け出ること
以上の3つのことをしておかなくてはいけません。
また、事業年度開始から4カ月以内に届け出をする必要があります。
役員報酬の決め方
それでは役員報酬はどのように決めていけば良いのでしょうか?
役員報酬の金額や支払い方法を定款に定めている場合は、その通りに毎月忘れずに支払っていけば問題ありません。
役員報酬に関して定款に定めを置いていない場合は、社員総会の決議によって定めることとなります。
(圧倒的にこちらのパターンが多い)
また、社員総会で役員報酬の総額のみ決定し、各役員の報酬額は理事会の決議で定めることも可能です。
これら総会や理事会で役員報酬について定める前に支払ってしまうと税法上、経費とできませんのでご注意ください。
役員報酬の相場
役員報酬の妥当な金額はどれくらいなんだろうとお悩みの方も多いのではないでしょうか。
役員報酬の妥当な金額を算出する決まった算式などはなく、判断基準は理事長や役員がいくら必要かという点と、それぞれの法人の懐事情を総合的に判断した上で決定することとなります。
ひとつの目安ですが、「前年の利益額‐2か月分の経費額」の範囲内で役員報酬の総額(全役員の役員報酬の合計額)を決めるという方法があります。(最低でも、剰余金として2か月分の運転資金は確保しておきましょう)
住宅を購入する予定がある場合や、子供の学費など大きな資金が必要な場合などはそれらを考慮して計画的に役員報酬を決定しましょう。
役員報酬は変更できる?
役員報酬を変更には、一定の制限があります。
まず、役員報酬を変更するためには、「事業年度の開始から3カ月以内」変更を行わなければなりません。
例えば、毎年4月1日から翌年3月31日までを1事業年度としている場合には、翌年の4月1日から6月30日までの3カ月間の間であれば、役員報酬の変更の手続きができることになります。
先ほど、定期同額に支払われる役員報酬は会社の損金として算入できることをお話ししましたが、
もしも事業年度の途中で役員報酬を変更した場合、”定期同額でない”ことになるため、役員報酬を損金計上できないことになりますが、事業年度開始から3カ月以内の変更であれば、全額損金として計上することが認められます。
事業年度開始から3カ月を経過した後に役員報酬を変更した場合には、役員報酬を損金とすることができず、損金とならない部分について法人税が課税されてしまうので注意しておきましょう。
もし、事業年度開始から3カ月を経過した後に役員報酬を増額したらどうなるでしょうか?
期間外に役員報酬を増額した場合、増額前の役員報酬が定期同額の基準とされるので、増額した分は損金不算入として扱われます。
(役員報酬を増額した部分には、法人税がかかります。)
一方、役員個人にかかる所得税は、”役員が受け取った報酬額”が基準になるので、増額した部分についても所得税が発生します。
つまり、変更可能期間外に役員報酬を増額すると、増額した部分に法人税と所得税が二重に課税されることになってしまいます。
まとめ
役員報酬を決める際には、”医療法人の安定性”と”個人の生活”のバランスをとることが重要です。
税理士さんなどにも相談しながら、バランスの良い役員報酬を設定しましょう。
(記事:板東)
医療法人設立手続きでご不明なことやご心配なことがあれば、イシカル法務事務所にお気軽にご相談ください。
医療関連手続きのみを取り扱っている、医療関連手続きの専門家が、医療法人設立をサポートいたします。