医療法人は大きく分けて「持分ありの医療法人」と「持分なしの医療法人」の2種類があり、どちらに該当するかでM&A(事業承継)の手法が変わります。
今回は、医療法人のM&A手法について、基礎知識をまとめました。
医療法人の承継を検討されている先生のご参考になれば幸いです。
医療法人のM&Aの特徴
医療法人におけるM&Aの特徴について紹介します。
医療法人におけるM&Aの流れは、一般企業のM&Aと基本的に同じです。
ただし、医療法人ならではの特徴があるため、通常の企業と全く同じような流れでのM&Aは難しくなっています。
M&Aの主な流れは以下のようになります。
①事前準備、売買相手の探索・確定
②トップ面談、基本合意書の締結
③デューデリジェンス(企業監査)
④最終契約、クロージング(M&Aの実行)
医療法人のM&Aの動向
もともと医療法人は営利を目的としないため、他業界のように利益拡大を目的とした積極的なM&Aは起こりにくいという特徴があります。
しかし、近年では診療報酬の引き下げに加えて、耐震基準などの問題による病院建物の建替えによる投資コストの増大や、人件費の高騰という問題が深刻化しており、経営が苦しくなった病院がM&Aにより他の医療法人に事業承継する事例が増加しています。
このような傾向の中、大規模医療法人ではさらなる規模拡大・広域展開に向けてM&Aの実施を計画していますが、医療法上の制限などがネックとなり、このような計画が十分に進んでいるとはいえません。
さらに、多くの病院では医師や看護師の人材不足の状況に陥っていることから、人材確保を目的としたM&Aの実施も目立ってきています。
持分あり・持分なしの医療法人とは
医療法人は、「持分ありの医療法人」と「持分なしの医療法人」の2種類があります。
持分ありの医療法人は平成19年3月31日までに設立されている医療法人で、医療法人の財産について社員(≒株主)が持分と呼ばれる財産権を持つタイプの医療法人です。
医療法人を解散した際、医療法人の財産は出資をした社員へ持分に応じて払い戻されます。
一方、持分ありの医療法人は平成19年4月1日以降に設立された医療法人です。
(現在はこのタイプの医療法人しか設立できないようになっています)
医療法人が解散すると、財産は国または他の医療法人など、公益性の高い団体のものになります。
どちらに該当するかでM&Aの手法が変わるため、承継の計画を立てる上で注意する点も変わってきます。
医療法人のM&Aで見られる手法
医療法人のM&A手法としては、
持分ありの医療法人としてM&Aする
持分なしの医療法人としてM&Aする
以上の2パターンがあります。
持分ありの医療法人が持分なしの医療法人へ移行することも可能となっています。
(ただし、税務上の問題があるため、いわゆる「認定医療法人」の認定を受けることが必要です)
しかし、持分なしの医療法人が持分ありの医療法人に移行することはできません。
持分ありの医療法人が、現在は持分なしの医療法人に移行している場合は、持分なしの医療法人としてのM&A手法をご参考にしてください。
・持分ありの医療法人のM&A手法
持分ありの医療法人のM&Aは、現社員(譲渡側)が新社員(譲受側)に持分を譲渡する”持分譲渡”の形を取ることが一般的となっています。
この持分の対価として承継に関する費用を支払うことになります。
(あまりに過大な金額での譲渡は行政から指摘が入る可能性があるため、税理士等によって財産価値を評価し、適正な譲渡対価を設定する必要があります)
持分譲渡以外にも、”事業譲渡”の形で承継を行うことも可能です。
・持分なしの医療法人のM&A手法
持分なしの医療法人のM&Aは、スタンダードな手法である”持分譲渡”が使えません。
持分のない医療法人なので、譲渡すべき持分が存在しないからです。
よって、持分無し医療法人を承継する際に何等かの対価を支払う場合は、どのような形で譲渡側に対価を支払うのか検討が必要です。
医療法人の具体的なM&A手法
具体的に、医療法人のM&A手法は4つ考えられます。
持分譲渡
医療法人の一般的なM&A手法です。
医療法人の持分を譲受側に譲渡することで医療法人の運営権を承継できるので、契約手続きや税務処理がシンプルです。
事業譲渡
医療法人の一部の事業を譲渡することです。
経営権限譲渡
医療法人の経営陣を入れ替える手法です。
法人の理事や社員などを交代させ、新たに経営陣を選任することより、経営再建が期待できます。
ただし、退職や退任により退職金が発生することや、退職金の額をどうするかが問題になります。
退職金が多額になると税金の問題が出てくるだけでなく、医療法人の安定性に影響が出る可能性がある場合は行政から指摘を受ける可能性があるので、退職金の額は慎重に検討する必要があります。
合併
合併とは、複数の医療法人が一つになることです。
病院で行われることが多く、合併する病院の負債や従業員も全て引き継ぐことになります。
医療法人がM&Aを行うメリット
医療法人がM&Aを行うメリットを説明します。
譲渡し側のメリット
・廃院を避けることができる
・地域医療に空白を作らない
・従業員の雇用先を確保する
・設備投資・事業の拡大を円滑に進められる
譲受け側のメリット
・多店舗展開ができる
・新規エリアへの事業展開(低リスク開業)
・優秀な医師・看護師の人材を確保できる
まとめ
今回は医療法人のM&A(承継)手法について解説しました。
医療法人の承継は整理が必要な事項が多く、医療法人の状態(1つしかない診療所が廃止、または1年以上休止されているなど)によってはそもそも承継できないものをあるため、
医療法人=承継とせず、しっかりと査定していくことが必要です。
また、医療法人の承継は可能ですが、「医療法人の売買」は禁止されています。
医療法人の売買とならないような形で承継を行っていくことが求められますので、
承継を検討する医療法人が現れた場合は、早めにご相談頂ければ幸いです。
(文:板東)
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