【この記事でわかること】
- 保険医療機関の「遡及指定(そきゅうしてい)」とはどのような制度か
- 遡及指定を受けるための要件と手続き区分(類型1〜3・提出期限)
- 遡及指定が認められた場合の施設基準(診療報酬の算定開始時期)の取扱い
※本記事は近畿厚生局の公表内容(令和8年6月5日付通知 保医発0605第2号、同年7月31日付事務連絡による一部訂正を反映)をもとに作成しています。管轄する厚生局によって取扱いが異なる場合がありますので、実際の手続きにあたっては必ず管轄の厚生局(近畿厚生局管内の場合は各府県事務所、大阪府は指導監査課)にご確認ください。
診療所や薬局を新たに開設する場合、保険医療機関等の指定日は「指定申請をした月の翌月1日」となるのが原則です。そのため、実際にクリニックを開業した日と保険診療を開始できる日との間にタイムラグが生じるのが通常の取扱いになります。
しかし、開設者の変更や移転などの一定の事情がある場合には、指定日を旧医療機関等の廃止日までさかのぼらせる「遡及指定」という制度を利用できることがあります。
今回は、近畿厚生局が公表している行政通知をもとに、遡及指定の概要や受けるための要件、提出期限、施設基準の取扱いについて分かりやすく整理・解説します。
保険医療機関の遡及指定とは?(メリットと対象ケース)
原則として、保険医療機関の新規指定日は「指定申請を行った月の翌月1日」です。しかし、旧医療機関の廃止に伴い新医療機関を開設する場合など、特定の条件を満たすと指定日を廃止日までさかのぼらせる「遡及指定(そきゅうしてい)」が認められます。
遡及指定が認められれば、旧医療機関が廃止された翌日から新医療機関で保険診療を切れ目なく継続できるため、開設者変更や移転に伴う「保険診療の空白期間(休診期間)」を避けられる大きなメリットがあります。
【遡及指定の対象となる主なケース】
- 保険医療機関等の開設者を変更する場合(個人から法人への組織変更など)
- 保険医療機関等の所在地を変更する場合(移転・建て替えなど)
- 保険医療機関を病院から診療所へ、または診療所から病院へ変更する場合
- 開設者(個人事業主)の死亡に伴い親族等が事業を承継する場合
遡及指定を受けるための要件と手続き区分(類型1〜3)
遡及指定を受けるためには、以下の「類型1」から「類型3」のいずれかの要件に当てはまる必要があります。区分によって必要書類・提出期限・事前手続きの要否が大きく異なるため、ご自身のケースがどの類型に該当するかをまず確認しましょう。
【遡及指定の類型区分一覧】
- 類型1:個人開設者の死亡等による承継の場合
- 類型2:至近距離(同一都道府県内・直線2km以内)の移転、または所在地変更を伴わない開設者変更
- 類型3:上記以外の変更(2kmを超える移転、法人間継承など)※3ヶ月前の事前届出が必須
【類型1】個人開設者の死亡等に伴う遡及指定
| 対象事例 | 開設者が個人である病院、診療所、歯科診療所、薬局で、開設者が死亡した場合 |
|---|---|
| 申請提出期限 | 毎月10日まで(10日が土日祝日の場合は翌開庁日) |
新医療機関の開設者は、「保険医療機関・保険薬局指定申請書」(省令様式第1号)等の適格性確認書類一式と施設基準の届出様式を、管轄の府県事務所(大阪府は指導監査課)へ提出します。同時に、旧開設者の相続人等による廃止届の提出が必要です。
【類型2】至近距離(2km以内)への移転・開設者変更
以下のア・イのいずれかに該当し、かつ厚生局が定める「基本的には認める要件」をすべて満たす場合は、類型2としての手続きとなります。
ア:至近距離への移転
同一都道府県内における直線距離で2km以内の移転(開設者に変更がない場合に限る)
イ:所在地移転を伴わない開設者のみの変更
病院・診療所の場合、個人から血族等の個人への変更、個人からその者を代表者とする法人への変更、法人からその代表者である個人への変更に限る
【類型2として認められる要件(基本要件)】
- 1つの保険医療機関等の廃止と1つの保険医療機関等の開設を伴う事例であること(複数の廃止・開設を伴わないこと)
- カルテ・調剤録等の引継ぎが行われ、旧医療機関の患者からの問い合わせに対応できること
- 現に診療・調剤中の患者(入院患者、外来・在宅患者等)への対応が新医療機関で引き続き行われること
- 旧医療機関の主な標榜診療科が、すべて新医療機関でも継続して標榜されること
- 新医療機関の管理者(管理薬剤師)が、旧医療機関と同一人であること(例外あり)
- 旧医療機関の勤務医師・薬剤師のうち、おおむね8割以上(常勤医師・薬剤師は5割以上)が引き続き雇用されること
提出期限:毎月10日まで(10日が土日祝日の場合は翌開庁日)
必要書類は類型1の提出書類に加え、「別紙1」の確認書類が必要となります。
【類型3】その他の場合(2kmを超える移転など)
対象:病院、診療所、歯科診療所、薬局
類型1・類型2に該当しない事例(直線距離2kmを超える遠方への移転など)は類型3として扱われます。個別の事情を踏まえて総合的に判断されるため、事前の相談が推奨されています。
【要注意】類型3は「3ヶ月前」の事前予定届出が必須です
類型3に該当する場合、原則として遡及指定を希望する日の3ヶ月前までに「予定届出書」(別紙2-1、2-2または2-3)の事前提出が必須です。この事前届出を怠ると、希望日からの遡及指定が認められず保険診療に空白期間が生じる恐れがあります。
遡及指定における施設基準(診療報酬算定)の取扱い
遡及指定が認められた場合、診療報酬の「施設基準」がいつから算定可能になるかは、旧医療機関での届出状況によって以下の3パターンに分かれます。
| 旧医療機関での届出状況 | 算定開始の時期(タイミング) |
|---|---|
| 旧医療機関で届出受理されていた基準 | 新医療機関でも要件を満たし期日までに届出を行えば、遡及指定日から引き続き算定可能 |
| 旧医療機関で未届出の基準 (診療実績が不要なもの) |
新医療機関で要件を満たし期日までに届出・審査完了で、遡及指定日の属する月から算定可能 |
| 旧医療機関で未届出の基準 (診療実績が必要なもの) |
旧医療機関の実績を用いて期日までに届出完了すれば遡及指定の属する月から算定可能。 実績がない場合は新医療機関で実績を積み、届出月の翌月から算定可能 |
このように施設基準によって算定開始時期が異なるため、指定申請スケジュールと並行して施設基準の届出計画を立てることが極めて重要です。
まとめ:遡及指定の手続きはスケジューリングが肝心
遡及指定の制度を活用すれば、クリニックの開設者変更や移転・事業承継に伴う保険診療の空白期間を防止できます。一方で、類型3では3ヶ月前までの事前届出が義務付けられているなど、厳格なタイムスケジュール管理が求められます。
なお、医療機関の廃止を伴わず特定の施設基準(診療機能)のみを移転する「機能移転」の手続きも別途存在します。移転や法人化、承継をご検討の際は、お早めに管轄の厚生局や医療手続き専門の行政書士へご相談いただくことを推奨いたします。
医療法人設立・診療所開設・事業承継のご相談は行政書士イシカル法務事務所へ
行政書士イシカル法務事務所では、医療法人設立、個人クリニックの開設・移転申請、事業承継(遡及指定手続き)まで幅広くサポートしております。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
出典:近畿厚生局「保険医療機関等の遡及指定及び機能移転の取扱いについて」(令和8年8月4日更新)

