昨今、どの業界も人手不足が深刻な問題となっていますが、医療機関も例外ではありません。
一人医師の医療法人で後継者が見つからず、医療法人を解散しなければならないという相談が最近増加してきています。
医療法人を解散しなければならなくなった際、退職金や残余財産の取り扱いなど財産管理は非常に重要です。
本記事では、医療法人の解散における退職金や残余財産の取り扱いについて詳しく解説していきます。
医療法人が解散すると国に財産を持っていかれるのは本当?
医療法人が解散した際に残る財産について、「国に財産を持っていかれる」という認識がありますが、これは一部の状況において正しいと言えます。
持分なし医療法人の場合、医療法人解散後の残余財産について、国や他の医療法人など、公益性の高い団体へ帰属させることとなり、拠出者(≒出資者)へは、拠出した金額を上限として残余財産が払い戻されるのみとなります。
そうすると、拠出した金額以上の残余財産は国等に帰属させることになることから、「国に財産を持っていかれる」と言われる所以となります。
持分なし医療法人の残余財産は国へ帰属する
平成19年4月1日以降に設立した医療法人(いわゆる持分なし医療法人)において生じる残余財産は、医療法第44条第5項により、
国もしくは地方公共団体または医療法人その他の医療を提供する者であって、厚生労働省令で定める者のうちから選定されるものに帰属(支払い)させなければならないと規定されています。
そのため、解散後に拠出金の返還や退職金の支払いなどを行った後に残る残余財産は、基本的に国へ帰属することになります。
国に財産を取られないための対策
医療法人が解散する際、残余財産を国に持っていかれないためには、残余財産を残さないようにしなければなりません。
残余財産が国に帰属することを避けるための一つの対策として、残余財産を退職金として支給する方法があります。
解散前に、法人の資産を理事の退職金として支給することで、残余財産を減らし、法人の財産が国に帰属するのを防ぐことができます。
(退職金の額は、税務上損金参入が認められる範囲で決定することが重要です)
残余財産を理事の退職金として支給することで、以下のような税制上のメリットがあります。
メリット①退職金を損金に算入することができる
メリット②退職金は、その他の所得に比べて税制上の優遇が多い
(退職金に対する課税は1/2になる、分離課税になる等)
※必ずしも退職金の全額が損金として認められる訳ではないため、退職金の額を設定する際には税理士さんの関与が必須となります。
医療法人の退職金の相場
退職金は、理事や理事長に支給されることが一般的ですが、ここでは理事長退職金のケースをみていきます。
医療法人の理事長の適切な退職金は、以下の式により算出されることが多くなっております。
退職月の役員報酬月額×役員就任年数×功績倍率3.0
功績倍率とは、役員の職責に応じた倍率のことで、理事長の場合上限が3倍程度となっています。
(退職金の額によっては、功績倍率を3としても損金参入が認められないケースがあります。)
例えば、退職月の役員報酬月額が100万円で、15年勤務していた理事長が退職する場合の退職金は以下のように求められます。
100万円×15年×3倍=4,500万円
それでも医療法人に財産が残る場合は、その残った金額を国庫等へ帰属させることになります。
退職金にかかる課税は?
医療法人の退職金には、所得税が課せられます。
ただし、退職金は通常の給与所得とは異なり、退職所得控除が適用されることが一般的です。
退職所得控除は、勤続年数に応じて一定額が控除され、その後に残った金額に対して課税が行われます。
退職所得は以下の計算式で求められます。
(退職金の額-退職所得控除)×1/2
退職所得控除は、勤続年数によって以下のいずれかが適用されます。
【勤続年数が20年以下の場合】
勤続年数×40万円
※80万円未満の場合は80万円【勤続年数が20年以上の場合】
800万円+70万円×(勤続年数ー20年)
例えば、勤続年数が15年で退職金1,000万円の場合は以下のようになります。
退職所得控除
15年×40万円=600万円退職所得
(1,000万円-600万円)×1/2=200万円
退職金の額を退職所得控除の範囲内に収めるなどすれば、退職所得にかかる税負担は軽くなりますが、退職金をもらえる額自体も少なくなってしまうため、バランスを考えて退職金の額を決定する必要があります。
過大な退職金はリスクがある
ここまでの話から、医療法人の解散時に残余財産を国に持っていかれないためには、税制上問題のない範囲で退職金を多く支給すればいいと思われているかもしれません。
しかし、医療法人が過大な退職金を支給することには、今後リスクが伴う可能性があることを忘れてはいけません。
なぜなら、過大な退職金は医療法第54条により、剰余金の配当とみなされ、過料として20万円を支払わなければいけなくなる可能性や、退職金として受け取った額を医療法人へ返還するよう指導を受ける可能性があります。
したがって、適切な額の退職金を支給することが重要です。
残余財産を残さないコントロールが大事
先述した通り過大な退職金を支給する方法は医療法上、税務上ともにリスクがあります。
そのため、解散が決まる前から適正な役員報酬の額を検討し、医療法人が解散する際に残余財産をなるべく残さないためのコントロールが重要です。
まとめ
医療法人を解散する際に残余財産をなるべく抑えるために、退職金の支払いが重要となります。
ただし、退職金の支給については、税務上や医療法上の問題が生じるケースがあるため、専門家のアドバイスを受けながら計画的に対応することが大切です。
医療法人解散手続きでご不明なことやご心配なことがあれば、イシカル法務事務所にお気軽にご相談ください。
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